日本の司法制度

福岡の3児死亡事件の 高裁判決が出た。
事故は2006年8月に福岡市の「海の中道大橋」で発生。
飲酒して運転していた被告の乗用車が追突し、被害車は橋の欄干を突き破って博多湾に転落し、幼児3人が死亡した飲酒運転追突事故である。

一審判決は「危険運転」と判断せず、
   「業務上過失致死傷罪」として、懲役7年6月にとどめていたが、
福岡高裁判決は「危険運転致死傷罪」を適用して懲役20年とし、
   判決文の中で、一審判決は誤りだ、と断じた。


 ★ ★ ★ ★ ★

よく知られるとおり、飲酒無謀運転、轢き逃げ、などの事故の多発
  それらの加害者が捕まっても呆れるばかりの量刑の軽さ
     に世論が激高する中で、
流石に日本の司法当局も放置できずに、「危険運転致死傷罪」を作った。

然し、法律は作ったものの、それを適用する事は極めて稀で、
何のために作ったのか、その意義が無いのが実情であった。
交通事故に限らず、 そうした
非常識な裁判の姿に世論が怒り、批判が盛り上がる中で、
司法当局が、(格好を付けて)、市民の意見を取り入れるため、と称して、
  「裁判員制度」、なるものを、こっそりと造った。


大多数の国民が知らないうちに造られた、その「裁判員制度」の実施時期が近付き、
多くの国民がそれを知って猛反発するようになった今の時期に、
今回の高裁判決が出たのだ。
 此処で私の感想を述べる。

 ★ ★ ★ ★ ★

 「裁判員制度」はこっそりと作ったのでなく、国会で公開の場で決めた事、
  と司法当局は弁解するに違いない。
確かに、沖縄返還交渉のように内緒話で決めた事ではない。
が、このような大きな影響のある法制度の変革が行なわれることを、
国民の90%以上が、極めて最近まで知らなかったのは事実である。
尤も、これには司法当局だけでなく、 マスコミも責任がある。

 ★ ★ ★ ★ ★

 若しも本当に司法当局が誠実ならば、
   一審の裁判官を断罪・処罰しなければならない。
 高裁の判決文の中で、一審判決は誤りだと断じているのだから。

司法関係以外は、どの様な公務員であっても、
  その職務行為が誤りであると認められると処罰が下される。
今回の高裁判決には多くの国民が拍手喝采しているのだから、

非常識な判決を出した一審裁判官には
  今後、裁判官の仕事をして貰いたくない。

司法が国民の信頼を獲得する為の最も有効な方法は

  誤りを犯した裁判官を処罰することであって、
  多忙な民間人を仕事を放置して裁判所に行かせ、
  裁判員として働かせる事ではない。


若しも、今回の事件が非常に法的に難しい問題を含んでいて、
法務一筋に生きてきた専門家の裁判官でも、危険運転致死罪の適用は司法判断も分かれるような難題なのだとするならば、
なおのこと、裁判員制度で、市民に司法判断の難題に答えを求めるのは間違っている。

 ★ ★ ★ ★ ★

 昨年末の経済危機以来、
 「最近一世紀ほどの人類の歩みは果たして正しかったのか」、
 「自由主義というものが本当に人類のために好ましい選択なのか」、
の議論が活発に行なわれるようになった。
 暫く前までは、その様な発言は無視されるか、顰蹙を買って非常識扱いをされたのが、大転換を遂げたわけである。

私自身は、4年前([05/4/12])に、
 {▲人類滅亡論[3]自然科学の進歩による滅亡: [C-4]}、      を書いたように、
21世紀以降も人類は生き延びられるだろうかと、以前から不安だった。


科学技術を進歩させ、現在の文明を造ってしまったことは、
 人類が自分の頭脳には不似合いな手足を獲得したこと
になるので、
 極めて危険な状態なのではないか、とずっと思っている。

手足が強力でも、それを動かす指令を出す頭脳がシッカリしていれば、問題を生じない。
一度くらい間違えて怪我をしても、それを反省して以後を慎む頭脳が有れば、大事を生じない。
しかし、何回怪我をしても、其処から学習する能力が無ければ、その内に致命的な事態を生じる。

 ★ ★ ★ ★ ★

 現在の司法制度を作り、大岡越前守流の裁判を止めたのは、ある意味で以前よりも進歩したように受け止められてきた。
丁度、自由主義経済が過去百年間、素晴らしいものと受け止められてきたのと同様である。
しかし、現行司法制度にしても、自由主義経済体制にしても、
それは強力な手足やマンモスの牙の様なモノであって、
それを運営する頭脳部分が壊れていては却って危険な道具である。

本日、このようなことをまた考えたのは、
本日の高裁判決をこれだけ国民が歓迎しているのに、
司法当局もマスコミも、上記のような、
一審裁判官の処罰とか、裁判員制度との関わりの論理を論じていない
のを、不審に思うからである。
マスコミは、裁判員制度が発足して民間人がこの様な判断を求められたらどうするか、等とは書くが、
裁判員制度そのものがどの様に生まれ、どの様な問題を含むか、
を論じていないからである。

 ★ ★ ★ ★ ★

 ▲感度の有無(7):小泉内閣:[C-136], に書いたように、
私の様な技術者は、日本では法科系の人間が支配していることに、毎度、苛立ちを覚える。
いずれ長い時間の後、将来には人類は進歩して、現状を脱却するようになるだろう。

丁度、 1000年ほど前には真面目な顔で、「もったいぶった議論」、
  をしていたのを、漸く現在では、「神学論争」、といって、
  馬鹿馬鹿しい昔話として、この様な時代もあった、
      と笑い話になったように、
いずれは工学的手法で社会が動く日が来る
、と思っている。
 
特に、日本という国は、「論理不感症」の総理大臣を選出する社会体制を造ってしまったのだから、不安である。


 [註]:これまでに書いた、人間の感度の関係記事は
感度の有無(7):小泉内閣
の文末に、リストアップしておいた。
それらの内、今回の問題に直結するものは、以下の記事である。

  ▲[C-111]: 耐震強度偽装問題
  ▲[C-112]:道路交通事故多発の原因
  ▲[C-130]:感度の有無(4)民主主義
  ▲[C-132]:感度の有無(6) O電鉄・バス

この記事へのコメント

変人キャズ
2009年05月17日 04:30
Holmes様から久々のTBを頂き、有難う御座いました。
数ヶ月前のモナミ様への返信コメントにも書いたように、モナミ様、Mariko様、痩せ蛙様、などの人々と同様に、変人の偏屈な意見を無言で遠方から見続けていてくださる方々が居る事を嬉しく思います。
Alps
2009年05月20日 10:37
品質管理では或る不良が出たとき、原因が周囲条件にありそうなときは直ちに変えて結果を見る。大概の場合はそれで不良が除去される場合が多い。何故変えたら不良がなくなったかは学者先生にゆっくりと理論的に究明してもらえばよい。
しかし人間が相手の場合はそうは簡単ではない。直接証拠がなく傍証だけの場合はきわめて裁判が困難になる。傍証固めの結果、あれしか犯人は居ないと立証しても尚且つ、弁護士から反論されるし裁判官の判断も事なかれ主義の軽量化になる危険性を孕む。かの「毒物カレイ事件」などはその例で、傍証だけで死刑が確定するかどうかに付いて、若し裁判員が判定する場合を仮定してみたら、果たして裁判員が判定できるかには多分に疑問を感じる。黒か白かではなく黒か黒でないかということになると更に微妙になる。状況資料なども忙しい人が数十枚から百枚以上の資料を精読できるとも思えない。
何故今、多少の模擬裁判くらいの実験で裁判員制度を施行するのかわからない。多くの人はそう考えているだろうし、当の裁判員に選ばれた人たちがそう思って居るのではないか。そんな状況下での施行に大いなる危惧を感じる者の一人である。

この記事へのトラックバック

  • 新型インフルエンザ

    Excerpt: 北中米で『豚インフルエンザ』の人人感染が確認されて思ったことは, 日本にウィルスが入ってくるのは時間の問題であるだけで,それは不可�... Weblog: 仁術と算術 racked: 2009-05-16 21:57
  • どうしても直らないNHK

    Excerpt: Alpsさんのブログ:   ▲富士山静岡空港 を読んで、富士山静岡空港の開港となった経緯を初めて知った。 責任者である石川知事の辞職と引き換えに、地権者が立木を除去することで、富士山静岡空港の開港.. Weblog: 二人のピアニストに思う racked: 2009-06-11 02:11
  • 改正検察審査会法施行

    Excerpt: 改正検察審査会法が施行され,平成21年5月21日から新しい制度が始まった。 Weblog: 佐久間象川 racked: 2009-06-21 02:04
  • 呆れた高裁判決(続)

    Excerpt:  「名張毒ぶどう酒事件」、について書く Weblog: 佐久間象川 racked: 2010-06-20 12:10
  • 腹立たしい「法科優遇」

    Excerpt: 以前にも書いた「法科優遇」批判を、いま、再び取り上げるのは、                二つの理由がある。 [A] 「飯塚事件」(福岡県飯塚市、女児2人の殺害)、には疑問の    残ることが.. Weblog: 佐久間象川 racked: 2010-06-21 05:36
  • 腹立たしい「布川事件」処理

    Excerpt: この記事は前回の、▲[B-121]: 腹立たしい「法科優遇」の続編である。 Weblog: 佐久間象川 racked: 2010-07-09 15:23
  • 「司法」と「報道」(2)

    Excerpt: 前回記事に述べた、「司法とジャーナリズム」の関係が、    日本では危うくなっていることを、我々の仲間は、機会あるごとに、    論及してきた。    以下に示すそれらの記事名の後の、●の項目は.. Weblog: 佐久間象川 racked: 2010-09-17 21:57
  • 革命への予感

    Excerpt: 日本で権力を持っているのは、法律を専攻した人間          (東大法学部卒など)である。  この連中が官僚になって国政を動かし、司法関係者  になって裁判を支配する。 明治の開国以来、  そのよ.. Weblog: 二人のピアニストに思う racked: 2012-02-12 16:30
  • 死刑執行に思う(2)

    Excerpt: 最初に前回記事の末尾に述べた、各自の信条に依って   適用される法律を変える(自分で選ぶ)社会の提案: ▲ 性悪説論者の弁(4):[B-51] について、である。 この記事は、大臣就任記者会見で.. Weblog: 佐久間象川 racked: 2012-04-04 09:39
  • 無意味な法律家

    Excerpt: 5月14日大阪市玉造の市道で乗用車が児童の列に突っ込み、   先月入学したばかりの一年生の女子が死亡した。   車を運転していた男は「前をよく見ておらず、   安全を確認しなかった」と供述してお.. Weblog: 佐久間象川 racked: 2012-05-19 05:59
  • 無意味な法律家(補足)

    Excerpt: 前回記事の内容は偶々その様なことが有った、というのでなく、      その以前から、同様な事が続いていた。 前回記事の補足として、その事例を紹介して、置く。 Weblog: 佐久間象川 racked: 2012-05-26 04:59
  • 裁判員制度(1)

    Excerpt: 今年3月に裁判員裁判で裁判員を務めた女性が   「急性ストレス障害(ASD)」と診断され、今月7日に慰謝料など    200万円の国家賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。 裁判員制度を「憲法違.. Weblog: 変人キャズ racked: 2013-05-12 05:35
  • 裁判員制度(3)

    Excerpt: 今回の元裁判員の起した訴訟に付いての、法律関係者の談話   を見ると、元裁判官の西野喜一・新潟大法科大学院教授は 「制度導入当初から、司法制度改革審議会でも国民の負担    についての具体的な議.. Weblog: 変人キャズ racked: 2013-05-12 09:19
  • 裁判員裁判と最高裁の判決

    Excerpt: 裁判員裁判と最高裁の判決 7/24に最高裁が下級審での判決を破棄した。  以前に( 日本の司法制度:[C-180][2009/5/15]) に述べた事を思い出す 今回の事実の経過は以下のとおり.. Weblog: 変人キャズ racked: 2014-07-26 09:54