(独り言20)「考えるあし」

考えるあし                  78.8.14

 人間は考えるあし(葦)だの、理性の動物だのといって、頭脳の働きにたいそう自信を持っているが、それはかなり怪しいのもだと思う。

★ アポロの月面着陸が行われる前は、月面では地球のような大気中散乱光がないから、昼でも満天の星がきらめいて見えると云われていた。 科学雑誌のさし絵にもそのように描かれていた

ところが、実際に宇宙飛行士が月面に立ったら星は見えなかった。
その説明はただちに得られた。 月面の明るい環境の下では目の視感度が調節されて、星の弱い光は目に感じないのである。

問題は、 この云われてみればごく当然のことも、
アポロ以前には世界中だれひとり指摘した人がいなかったことである。


★ 金属半導体接合の整流機構がまだ解明されていなかった頃、これをトンネル効果で説明するウイルソン・ノルドハイムの理論が信じられた一時期があった。
この理論では整流方向が実際の逆向きになってしまう、という、もっとも単純かつ基本的な不都合は、6年後にダビドフが指摘するまで見逃されていた。

★ 電磁気学を築いたマクスエルは、技術的に電磁波を発生する可能性は乏しいと思っていた。
その電磁波を実験室で発生してセンセーションを起こしたヘルツは、それが通信に利用されるなど考えてなかった。 彼は新聞記者に「この実験が皆様の生活に関係があろうとは思えません」と語っている。

★ 1960年代には電算機の進歩によって、10年位の内に翻訳機械ができる、と考えられていた。 10年後の今日、この夢は遥か遠方に押しやられた。
一方、60年代には想像もしなかったLSI技術の進歩で、マイコンが一般化し、電卓が小学生の持ち物になった。

★ 難解な詰め将棋の問題を出されると、「私の力では解けない」とは考えず、「問題が間違っている」と主張する人がいる。
アセンブラ言語でプログラムを書いていた頃、「計算機がこわれてる」と騒ぐ人がよくいた。

考えるあし達の言動である。 人智の限界を示すこれらの歴史的事実
   から、何を感じとるかは、人によってさまざまであろう。






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註記:「私の独り言{前置き[1]}:2005/4/21」に述べた理由で、このシリーズの記事を多数並べているが、これらの中で筆者として最もお読み戴きたいのは、次の2編です。
◎[11]私の独り言{明治生まれ:1979/5/26}[2005/7/6]
◎[9]私の独り言{血税の使い方:1978/4/5}:[2005/07/04]
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